こころに影響を及ぼすもの:知覚・出来事

 心理学・カウンセリング・メンタルへルスの研究の結果、様々な要素が「こころ」に影響を及ぼすことが判明しており、それは心理カウンセリングの現場でも同様である。従って、心理カウンセラーは世界基準である科学者-実践者モデルに沿って「あらゆる心理学分野の知識」を網羅した上で「科学者の視点」を常に持ちながら治療・支援に携わる必要がある。
 「こころ」に影響を及ぼすものの1つに知覚がある。知覚とは目・耳・鼻・舌・皮膚による五感からの情報伝達であり、より日常的に考えると「出来事・経験・体験」の全般を指すものである。テレビを見ているという「出来事・体験」は目からの情報を知覚することであり、音楽を聞くという「出来事・体験」は耳からの情報を知覚するということである。心理カウンセリングにおいても、認知や感情などの全ての心理的過程に先行してクライエントが何かを知覚(体験・経験)し、それがきっかけとなってカウンセリングを受けることになる場合が多い。ただし、クライエント自身は知覚(体験・経験)と現在の認知・感情・行動との間の関係性に気づいてないことも多く、その意味でも気づきを促すというアプローチが心理カウンセリングにおいて重要となる。
 知覚は非常に重要かつ、心理的過程の「最初の部分」であるが、これをコントロールすることは極めて困難である。たとえば、目からの情報をコントロールするということは、目をつぶる以外に方法がない。外出時に目から入ってくる情報をコントロールしようとしても、どこから何が現れ、どのタイミングで視界から消えるかは分からない。同様に耳からの情報についても、自身が何の音も発生させていなくても、道路工事の音や空調の音、他者の話し声などは耳を塞ぎでもしない限りは制御できない(厳密には耳を塞いでも物理的に無音となるわけではない)。より拡大的に解釈すれば知覚の制御不可能性とは「明日、自分の身に何が起きるかは分からない」ということであり、出来事・経験は様々な要素で成り立つものであるが故に能動的なコントロールは不可能に近い。心理カウンセリングにおいても、出来事・体験におけるクライエントの認知の修正・変容や、そこから派生する形で感情変化、行動変容へのアプローチは可能であるが、知覚に直接的にアプローチする方法はほとんどない。1週間に1回・60分のカウンセリングを実施しているとした場合、残りの6日と23時間に起きるクライエントの出来事・経験は心理カウンセラーによるコントロールはおろか、観察することすら困難である。


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